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麟のような死の存在が同一の人間と触れ合い続けるには、相反するモノを結び付ける理が必ず必要となる。
しかし、同じ病気でも必ず身体に同じ異常が現れないように、契約にもケースというものが存在する。大抵の場合は契約書によって契約するケースが多いのだが、麟の場合は特異中の特異ケースだった。そのため、麟と男は魂で繋がり、契れる事のない契約を交わしている。
故に契約書など必要ないのだが、男曰く「物事には順列があるから、形だけでもやっておくよ」という事らしい。実に几帳面である。
まぁ、そこが彼の魅力の一つなのだろうが、以前の麟とは如何せん釣り合わない所でもあった。
勿論、今は麟も彼を理解したからこそ、釣り合って長い年月を共に過ごして来ている。
肩甲骨辺りまで伸びた艶やかな長い黒髪と裏腹に、まだ幼い少女の面影を残した麟の表情は虚ろだった。
それもその筈だ。
「腹……減った……」
麟は拗ねたように呟き、線の細い身体をベッドに預ける。
いつも麟が起きる頃に、麟の大好物のツナマヨおにぎりを持って彼は参上する。しかし、今日は全く来る気配がない。
文無しの麟にとって彼の持ってくる朝食が朝の唯一の楽しみだった。
心や身体に傷を負い、殺人衝動や拒絶反応を示していた“あの頃”とは違う。彼によって変化した麟は彼が居ないと自分を保てない。彼が消える。それは自分の命の灯も消えてしまうということ。
だから毎朝、同じ時間に部屋を訪れてくれないと、不安と恐怖に襲われてしまう。
以前、彼に『繊細な硝子細工の様だ』と言われた事があった。その意味に気付いたのはつい最近の事だった。
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