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お葬式が終わり、あたしは拓真君の部屋にいた。
拓真君のお母さんが帰る前にどうしても寄って欲しいって言ってきたから。
「……拓真ね。引っ越しした後も詩穂ちゃんのことばかり話してたのよ。自分が働けるようになったら、今度は俺が家を出る。それで霧島の住んでる近所で働いて驚かせてやるんだって……張り切ってたわ」
「拓真君……」
そんなこと考えてたなんて知らなかったよ。
拓真君のお母さんは本棚の中にあったアルバムを取りだした。
最初のページには子供の頃のあたしと拓真君が、手を繋いで嬉しそうに笑っている写真が貼られていた。
「詩穂ちゃんが来てくれて、きっと拓真も喜んでると思うわ。今頃、こんな風に笑ってるんじゃないかって……。……っ」
それだけ言うと、拓真君のお母さんは立ち上がった。
「駄目ね、ここにいると泣いてしまいそうになっちゃう。……そうだ、おばさん下の部屋にいる詩穂ちゃんのお母さんと話をしてくるわ」
「……あ、はい。分かりました」
「詩穂ちゃんも一緒に降りる? それともまだここにいる?」
「あの……もう少しだけここにいたいです」
「そう、分かったわ。ゆっくりしていってね」
拓真君のお母さんは目を細めて笑った。
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