Une main de l'aide

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 今まで殺してきた命の数を、リコリスは覚えていない。  おおよそすら、わからない。それだけ、リコリスにとって殺しはひとつの作業であり、単純なことだった。  たとえば農家の人間が野菜を育てるように、たとえば服屋の人間が服を作るように、たとえばお酒をあおるように、それは単純かつ一つの作業で、意味があるのかないのか、よくわからない。  けれど、にこると旅を始めてから、今日初めて殺しをしたことは確かだった。  目の前に広がる火の海。  これは、元々戦争という名の社会現象に巻き込まれた村を、にこるが助けようとして、そして必然的に自分も助けようとした、それだけだった。  だったはずなのに、なぜか今ここはリコリスが作り出した地獄へと化していた。  なぜ、こんなことになったのか。うと、にこるの殺すなという約束を律儀に守っているのもばからしくなってきた。 「おい、こっちでなにか……っうわああああああああああっ!!」  幸い、にこるはもうリコリスのそばでリコリスの戦いを見てはいないのだ。  爆発音を聞きつけて走ってきた兵を剣で叩き伏せ、火をつけて燃やす。  心がどんどん覚めていく。  どういうわけか、にこるのそばにいると、剣をふるうことを躊躇ってしまう。だからリコリスは一度だってにこるのまえで魔法を使ったことはなかった。
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