Une main de l'aide

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   リコリスはただ戦った。辺りが抉れようと、誰が巻き添えを食おうと気にせず、ただ目の前の男のみを殺そうとしたのだ。  どんなに大きな炎の魔法をぶつけようと、どんなに剣できりつけようと、どんなに殴ろうと蹴ろうと、男は決して立ち上がることをやめなかった。  とうに男の魔力は尽きている。それでも立ち上がらない男を殺そうと、リコリスは表情一つ変えずに剣と魔法を振るう。  戦いともつかない、一方的な攻撃。  息が細い。立ち上がることもままならない男は、だが決して寝転がったままにはならない。膝をつき、血を流しながらも男は立っているのだ。 「くそ、やっぱ、核がちがうか……」  男は呟く。が、その瞳に諦めはない。リコリスは問答無用で剣を構える。  最後の一撃にするつもりだったのだ。 「リコリス、だめよ」  綺麗な声が響いた。  男をかばうように立ちはだかった彼女、にこるは怒ったような顔をしてリコリスを見つめている。  彼女の服はところどころにすすがついていて、リコリスが戦っている間別の場所でまだ生きている人間を避難でもさせていたのだろう。 「殺しはしないという約束は?」  にこるは剣を構えるそぶりこそないものの、リコリスを睨んでいる。だが、それに攻撃性はない。 「おまえには関係のないことだ」 「どうしたの、リコリス。変よ」 「変じゃない。これが……これが本来の私の姿だ。私は、化け物だ」  自分でそう言って、リコリスは自分の中の何かの糸が切れたように感じた。 『なんだありゃ、化け物じゃねーか』 『ひっ、ば、化け物! よるなぁ!』 『おい、化け物さんよぉ。あんたみたいのがいるから、戦争ってのがあるんじゃねえのか』  仲間と呼べる人だって、自分を雇っていたものだって、敵だって、誰だって、リコリスは皆に化け物と言われ続けてきた。  それは少しずつリコリスの心を蝕んだ。殺して、殺して、殺し続け、化け物と言われ、心は死神のそれへと変わった。   
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