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リコリスは今まで幾度となく戦を繰り広げてきた。そしてその途方もない戦いの数のぶんだけ勝ってきた。
だから初めてだったのだ。
にこるは剣を構えたものの、鞘におさめたままだった。
さらには向こうから攻撃はしてこない。守るか、かわすか、たまに反撃をしかけてくる程度で、絶対に向こうから仕掛けてこない。
それなのにリコリスは中々勝つことが出来ないのだ。
「-っ!!」
ガキィンと鋭い音が鳴る。
「やっと抜いたか」
ようやく鞘を抜いたにこるに、リコリスが安堵する。なにに対する安堵なのかはわからない。
接近戦に持ち込められれば、勝敗あり。
剣を向け合いながら、にこるは燃え盛る炎を背景にして静かに口を開いた。
「リコリス、わたしが嫌い?」
「……」
答えることができなかった。
「あなたがわたしと出会う前、何をしていたかも全部知ってるわ。あなたは有名だったからね。その紅い綺麗な髪を瞳を見て、すぐにわかったの」
ずぐんと、リコリスの胸が嫌な音をたてたように思う。知られていなければいいなと、心のどこかで本気で思っていたのだ。
「でも、それでもわたしはリコリスが好きよ。リコリス、あなたはわたしの大切な友なの」
にこるはそう言って、剣を鞘に収めると、消した。
リコリスが目を見開くが、にこるはなんてことないようにいつものように笑った。
「あなたに剣は向けられない。けれど、あなたがわたしを殺すのを止めはしないわ」
そう言ってご丁寧に両手まで挙げたにこるに、リコリスは自分が慌てていることに気付いた。
「なぜだ、剣を取れ!」
「いやよ。言ったでしょう。友に剣は向けられないと」
「私に友などいない……!」
力任せに叫んだのち、リコリスがはっと息を呑んで彼女の顔を見上げる。すると、彼女は案の定悲しげな笑みを浮かべていた。
「それでもわたしはあなたが好きだから。あなたに剣は向けない」
「なぜだ……」
ぎゅっと剣を握り締めて、リコリスは俯いた。どうしたらいいのかわからない。
「5秒間、目をつぶるわ」
混乱する頭の中。
「わたしを殺すなら殺して。もし殺さないのなら、わたしはここを立ち去る。あなたの前に姿を現すことを今後一切やめる」
そう言ってにこるは本当に目をつぶった。殺気も敵意もなにもない。すべてを受け入れるかのように、にこるは安心しきった顔で目を閉じていた。
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