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リコリスは剣を構えた。
だが、足が地面に磔にされたように動かないのだ。体の一部とかした愛剣が異様に重く感じる。
結局なにもできなかった。
前までならたやすく命を奪っていた。相手の聞き分も聞かず、無駄なおしゃべりは決してしない。
求められる力が死神のものなら、死神になればいいのだと思ったのだ。
泥のように重く感じた5秒がすぎた。にこるがそっと目を開ける。
そして笑みを消し、真剣みのある表情でリコリスに歩み寄った。
「っ」
だが、どういうわけか、リコリスは一歩さがってしまったのだ。自分のしたことに驚く暇も無く、目の前のにこるという少女に思考が塗りつぶされていく。
「リコリス」
「……」
一歩、一歩。確実に、ゆっくりとにこるが詰め寄ってくる。
リコリスはまばたきすることもわすれ、ただ一歩ずつあとに引くのみだった。
刹那、にこるが急に視界からうせた。かと思えば、背中に衝撃が起きた。
廻る視界の中で、自分がにこるに押し倒されたのだと気付くのは、少々時間がかかった。
目の前にある美しく、平凡で、かわいらしい顔。けれどその瞳には燃えるような覚悟と、何かあつい感情がくすぶっていた。
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