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淀みのない、真っ直ぐな眼差し。
「もっと見てみたいんだよ。あんたの目に映るこの街を」
私はもう一度、手元の写真と携帯の画像とを見比べる。
それから、顔を上げて辺りをぐるりと見渡した。
硝子細工のビルディング。
行き交う人の流れ。
ただ流され、通り過ぎてきた日々。
「じゃあ…あなたの撮った写真も、もっと見せてくれる?」
そう言って振り向くと、そこには眩しい程の笑み。
「もちろん」
私は思わず、男にレンズを向けた。
表示画面に映し出される、笑顔。
鳴り響くシャッター音。
男は瞬き、それから柔らかく瞳を細めた。
「その写真のタイトルは?」
私は少しの間考え、そうして、呟くようにその言葉を口にした。
「硝子の森で出逢った…へんな男」
中々いいタイトルだ。
そう言って男は、再び青空のような笑顔を見せた。
私は今日も、硝子細工のビルの谷間を泳ぐ。
ゆらゆら、ゆらゆら。
その先にあるものを、探して。
end.
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