硝子の森

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「…チャン。柚希チャン」 名を呼ばれ振り返れば、そこには見知らぬ男。 私は首を傾ぐ。 「…ダレ?」 「ひっで。まだ一週間もたたねーのに。ハイ、忘れモン」 そう言って人好きのする笑顔を浮かべる男が取り出したのは、淡いピンクの携帯電話。 「…あたしの…?」 そう言えば、数日前から見当たらなかった。 携帯を受け取りながら、私は男の顔をまじまじと見つめる。 男が苦笑した。 「ホントに忘れちゃったんだ?イチイチ相手の顔も覚えてらんねー程しょっちゅう、あんなコトしてるってワケ?」 「あんなコト…」 男の顔に心当たりはないが、そんな風に言われる行為に心当たりはあった。 それについて弁解する気はなかったけれど。 「ケイタイ、ありがと」 私は踵を返す。 アスファルトを叩くミュールのヒールが、高い音をたてた。
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