硝子の森

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「ねー。ねーねーねー」 小走りに駆け寄って来る、男。 「何でさ、あんなコトしてんの?カレシとかいねーの?」 「…よく」 「え?ナニ?」 耳に手を当ててこちらを覗き込む男の顔に、ちらりと視線をやる。 「よく覚えてたね、私の顔。明るいトコで見たワケでもないのに」 男がくすりと笑った。 「だって、ラブホの風呂でパンツ洗う女、初めて見たもん」 「…そう」 私は男から視線を外す。 それを不服に感じたのか、男は尚も続ける。 「俺が答えたんだから、次はそっちの番。何であんなコトしてんの?」 「…何でって…」 私はまばゆい景色を見上げながら、独り言のように答える。 「…ご飯ご馳走してもらえるし…ベッドで寝れるし…お風呂入れるし…パンツ洗えるし…」 「結局パンツ!?」 男が腹を抱えて笑いだす。 とても楽しそうに。 私はその光景を、ただぼんやりと視界の端に捉えていた。 「へーんな女」 ひとしきり笑った後で、男は瞳に溜まった涙を拭いながら言った。
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