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屯所を出発して数日後、新撰組一行は大阪に辿り着いていた。
「新撰組である!!谷万太郎はいるか!?」
ある建物に入ると、腹から声を出す近藤。その声を聞いて男が4人出てきた。
谷万太郎は、大阪屯所の長をしている。今回の土佐浪士については彼が聞き付けたと近藤達の耳には入っていた。
「土佐浪士を斬ったというのはお前達だな。逃げた奴等はどうした?」
「既に大和の方へ逃げられました。」
近藤の言葉に真ん中に立つ谷万太郎は答える。その声色はどこか余裕があるようだった。
「では手分けして探そう。まだ思っているより近くにいるかもしれん。」
そう言って近藤が建物を出ようとした時、土方がそれを止めた。
「待ってくれ、局長。……何故お前等は勝手に動いた?動く前に報告することを知らねぇのか?」
土方の鋭い眼光が4人を捕える。まるで返事次第では斬るとでも言っているようだ。
「少人数の方が都合が良かったんですよ、副長。事後報告になったことは謝ります、でも事を急ぐものだったので。」
気味の悪いほど優しい笑みを浮かべた男が、土方の前に立つ。優しい笑みの裏にどす黒い何かを感じさせる男…
「谷三十郎……」
土方はその気味悪い笑みを浮かべた男の名を呟くと、険しい顔をする。
谷三十郎、副長助勤で後の七番組長となる男で、谷万太郎の兄でもある。
谷は笑みを浮かべたまま、また一歩踏み出そうとした時─
「副長助勤なら尚更動く前に相談が必要じゃない?」
サッと土方の前に沖田が立つ。谷とはまた違った不気味な笑みを浮かべて。しかし谷は笑みを深め、目をぎらりと輝かせた。
「沖田君、“僕もそうしたかったが出来なかった”…そう言ったつもりだったけど、分からなかった?」
「へえ。全く分からなかったよ、影でこそこそと動く奴の言葉なんかね。」
笑みを浮かべた2人の間に、冷たく張りつめた空気が流れる。
しかし当の2人はその空気すら楽しんでいるようだった。
「やめなさい。」
2人に流れる空気を断ち切ったのは局長である近藤だった。
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