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「以蔵!?」
ついさっきまであった坂本さんの優しい表情が、一瞬で凍りつく。そんな彼の視線の先には言葉通りふらふらと歩く以蔵さんがいた。
「以蔵さん、誰かに斬られたんですかね?肩に血が─」
「あれは返り血じゃ。それに以蔵は簡単に殺られる奴じゃないぜよ!!」
血だらけの以蔵さんを目前にしても冷静でいられる私はすごいと思う。
「……ですよね。」
そう思いながら力強く否定する坂本さんの言葉に、私は同意するしかなかった。けれど見るからに弱っている今、新撰組のいる小屋の前を通るのは危険すぎる…。
確か土方さんは“泳がせろ”と命じたけど、敵を目の前にして刀を抜かないという保証はない。……念のため小屋を通る前に動いたほうが良さそうだな。
「坂本さん、あのまま進むと小屋の前を通ることになります。万が一ということもありますし、作戦をたてませんか?」
せっかく坂本さんがいるんだ、協力してもらった方が絶対いい。 そんな私の考えを分かってか、にっと笑い彼は賛成してくれた。
「じゃあ私が新撰組を出来るだけ止めますんで、坂本さんは以蔵さんを連れて逃げてください。彼が小屋の手前に来た時に決行しますから。」
私は話ながらも近くにあった荷車に手をかける。そして手当たり次第にものを乗せていった。
「愛殿がわざわざ危険な目に合う必要はないぜよ!!わしは剣術の心得がある、だからわしが─」
「ほらもう来ますよ。私が小屋を壊した瞬間に逃げてくださいね。」
私は坂本さんを尻目に荷車を小屋に向け、タイミングを見計らう。…けれど坂本さんも諦めてはいなかった。
「以蔵は愛殿を好いておる。友の好いておる女を危険な目に合わすなどわしには出来ぬ!」
「私は力には自信あるんですよ?…それにあなたにはやらなきゃいけないことがある。私もあなたの力を借りなきゃいけないし…、だから逃げてください。」
「何を言ってるかさっぱりぜよ!!わしは愛殿が─」
「だーかーらー、この貸しは絶対に返してもらうって言ってるんです!! あ、作戦始めますよ。」
言い終わると同時に乾いた地面を蹴って、荷車を押す。後ろで坂本さんが何か言ってる気もしたけど、もう荷車を止めることは出来なかった。
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