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「人斬り以蔵 覚悟!!」
声と共に小屋の中から数人の隊士が姿を表す。その手には妖しく光る刃があった。
─読みが当たった、か
出来ることなら隊士達を傷つけたくない…
けれどまるで考えなおせと言うかのように、目の前の光景が変わっていた─
「以蔵、もう大丈夫ぜよ。わしと愛殿が来たからな!」
以蔵さんを自らの背でかばい、刀を構える隊士達と睨みあう坂本さん。このままだと─
「行けぇぇぇ!!!」
考えるより先に体が動いた。腕力の全てを荷車に込め一気に押し飛ばす。通常の用途と違う荷車は、まるで何かの化け物のように隊士達を襲う─
「「ぎゃあぁあぁぁ!!」」
─ガシャァァン!!
一瞬だった、荷車は迷うことなく隊士達に当たり……
「愛殿!!わしに捕まるんじゃ!!」
─フワッ
…………え?
体が宙に浮く感覚の後、世界が逆さまになり、凄い速さで隊士達から離れていく。…私 坂本さんに担がれてる?
「以蔵、しっかりせんか!!愛殿が落ちてしまうぜよ。」
「…愛殿…? わしは…愛殿に…」
私のすぐ近くでうわ言を話す以蔵さんが視界に入る…って坂本さんは大人2人を担いで走ってるの!?
「さ坂本さん!?腰痛めますし、私走れますから降ろしてくだ─」
「大丈夫じゃあ!!これぐらい操練所の訓練だと思えば……それに泣いてるおなごに無理はさせられないぜよ。」
─“泣いてる”?
「だから大船に乗ったつもりで景色でも見てるといいぜよ!!はっはっは!!」
坂本さんは既に息が荒れふらついているのに、私を支える手は緩めない。
私はそんな彼の肩の上で、はらはらと頬を流れるものに手を触れた…。
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