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「も、もう大丈夫ぜよ。 怪我はないか、愛殿?」
坂本さんは暫く走った所の物影に、私と以蔵さんを降ろした。そして息を調える間もなく優しく声をかけてくれる。
「大丈夫です、ただ……」
さっきから頬を伝うものが止まらない。
私の言いたいことを察したのか、坂本さんは私の頭を優しく撫でてくれた。まるで小さな子をあやすように…
「恐かったのう? でももう大丈夫ぜよ。ここなら新撰組は追いかけてこない。」
……“恐かった”?
ううん、違う…
〈私は彼等を傷つけてしまった…〉
“守る”と誓っていたのに─
「愛 殿…、わしは…ぁ」
ふと以蔵さんのうわ言の中で、私の名前が聞こえた。そういえばさっきも私の名前を言ってた気がする。
「どうした以蔵、ゆっくり話せ。」
苦しそうな以蔵さんに、坂本さんは優しい声色で声をかける。以蔵さんは薄く目を開くと、言葉の続きを紡いでいった。
「龍馬、わしは武市先生の話す日本の未来のために、沢山の者を斬ってきた…でも今、皆がわしを殺そうとする。……わしがしてきたことは間違っていたのかのぅ?」
いつかに聞いた以蔵さんを悩ませていた話だった。優しいがゆえ悩み、以蔵さんを苦しめる…。
「何を言っとるかぁ!!お前は信じる道を進んだだけぜよ。…例え間違っていても次は間違えんかったらええだけじゃ。」
悲痛に満ちた以蔵の言葉に坂本さんは満面の笑みでそう話す。でもその表情はどこか悲しそうに見えた…。
以蔵さんはそんな彼を暫く見つめた後、また口を開き言葉を紡いでいく。
「…もうわしは1人でこの苦しみを抱えるしかない、わしはどうせ1人…ずっとそう思っていたぜよ…
愛殿と出会う前までは。」
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