以蔵さん……?

27/28
前へ
/259ページ
次へ
── ───── 「も、もう大丈夫ぜよ。 怪我はないか、愛殿?」 坂本さんは暫く走った所の物影に、私と以蔵さんを降ろした。そして息を調える間もなく優しく声をかけてくれる。 「大丈夫です、ただ……」 さっきから頬を伝うものが止まらない。 私の言いたいことを察したのか、坂本さんは私の頭を優しく撫でてくれた。まるで小さな子をあやすように… 「恐かったのう? でももう大丈夫ぜよ。ここなら新撰組は追いかけてこない。」 ……“恐かった”? ううん、違う… 〈私は彼等を傷つけてしまった…〉 “守る”と誓っていたのに─ 「愛 殿…、わしは…ぁ」 ふと以蔵さんのうわ言の中で、私の名前が聞こえた。そういえばさっきも私の名前を言ってた気がする。 「どうした以蔵、ゆっくり話せ。」 苦しそうな以蔵さんに、坂本さんは優しい声色で声をかける。以蔵さんは薄く目を開くと、言葉の続きを紡いでいった。 「龍馬、わしは武市先生の話す日本の未来のために、沢山の者を斬ってきた…でも今、皆がわしを殺そうとする。……わしがしてきたことは間違っていたのかのぅ?」 いつかに聞いた以蔵さんを悩ませていた話だった。優しいがゆえ悩み、以蔵さんを苦しめる…。 「何を言っとるかぁ!!お前は信じる道を進んだだけぜよ。…例え間違っていても次は間違えんかったらええだけじゃ。」 悲痛に満ちた以蔵の言葉に坂本さんは満面の笑みでそう話す。でもその表情はどこか悲しそうに見えた…。 以蔵さんはそんな彼を暫く見つめた後、また口を開き言葉を紡いでいく。 「…もうわしは1人でこの苦しみを抱えるしかない、わしはどうせ1人…ずっとそう思っていたぜよ…    愛殿と出会う前までは。」
/259ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1001人が本棚に入れています
本棚に追加