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「……“愛”が以蔵を変えた、そうじゃろう?」
───もしかして…!
私は先刻坂本さんが言ってた話を思い出した。あれは…以蔵さんのことだったの!?
私の視線に気づいたのか、坂本さんは優しく微笑み頷いた。
「愛殿はわしとまた団子を食いたいと言ってくれた、守ると言ってくれた…わしは1人じゃないと思えた。
けれどわしとおれば愛殿まで苦しい思いをすることになる…だから神社を出たのに また助けられた。」
一筋の涙が以蔵さんの瞳から流れ落ちる。
「愛殿がくれた羽織が、わしを守ってくれたんじゃ。…あの時、風が吹いてわしを刃から…。」
やっぱり以蔵さんに渡したものだったんだ…。でもどうしてだろう?さっきから以蔵さんが私の方を見ない。ううん、気づいていない。
「…わしのこの命は
愛殿を守るために使う、もうわしは迷わん。」
言葉が消えるのと寝息が聞こえるのとは同時だった。寝息が聞こえた瞬間かなり気が抜けたけど、いつの間にか私の頬を流れていたものも止まり、代わりに笑みが浮かんだ。
「以蔵はあほじゃ、本人が横におるのに気づかんとは。……愛殿はどう思う、以蔵の気持ちに。」
ニヤニヤと笑いながら尋ねてくる坂本さんに、正直少しだけ苛ついてしまった。
「私のどこに命をかける価値があるのか分からないけど…嬉しいです、凄く。」
「そうか…。」
私の素直な言葉に坂本さんは満足そうに頷いた。そして眠った以蔵さんを背中に背負い、私をまっすぐに見つめる。
「わしは以蔵を連れて知人の元へ行く。愛殿はどうするがか?」
坂本さんの言葉に私は少し考えてから、口を開いた。
「私は…家に帰ります。大事な用があるので。」
泣いてる暇はない、私はそう自分に言い聞かせる。それに以蔵さんは坂本さんが面倒を見てくれる、だからもう心配することはない。
「そうか。では、また。」
坂本さんは優しくそう言うと、人目につかない狭い道へと進んで行った。
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