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「はぁ…理由を話す、だから手を離せ。」
呆れたような表情をする土方さんの言葉に、黙って従い手を離す。土方さんは乱れた部分を軽く直すと、真っ直ぐに私の目を見た。
「お前は誰かになりきるのが得意とみた。だが、斎藤や総司には通じない。」
「土方さんには通じました。」
「うっせぇ!…だから監察方の山崎に頼み、お前の“特技”を“武器”にしてもらう。近藤さんの役に立つためにも、中途半端じゃ駄目だろう?」
言葉は優しいけど、声色が否定は許さないと言っていた…。確かに特技を武器に出来るのは、私にとっても良いことだと思う…でも─
「女中が監察方の弟子になるなんていいんですか?まして監察方である山崎さんが訓練してくれるってことは、山崎さんの姿を隊士達に見せることになります。幹部以外にその姿を見せるのはまずいのでは?」
〈山崎さんの弟子が嫌〉ということ以外を、土方さんにぶつけた。私の話を黙って聞いていた土方さんは、暫く考えてから口を開く。
「確かにお前の話には一理ある。だが心配することはない、訓練はどれだけ変装が出来るか、どれだけ相手を騙せられるかだけだ。夜、山崎から変装の内容を聞き翌日実行する。まぁ、女中の仕事もあるし毎日はしないように話してあるから。」
……………え?
「く、クナイとか投げたり避けたりの練習は…?」
山崎さんがクナイを避ける練習からとか言っていた…。けれど私の話を聞き、土方さんは呆れたようにため息をはく。
「さっきも言ったが満足に茶も淹れられない奴に、クナイなんか投げさすかよ。そんなにクナイを触りたければ、的になる練習でもしろ。」
「………騙された?」
じゃあ怯えることは何もないってことなのかな…?
「あと斎藤がお前用の竹刀を用意してたぞ、何でも軽くて強い竹刀なんだと。」
土方さんの言葉に斎藤さんに頼んでいたことを思いだした。…竹刀まで用意してくれたんだ、明日ぐらい行こうかな?
「しかし馬鹿力の奴に剣術を教えるなんて、あいつ死ぬつもりなんじゃ─」
「また殴られたいんですか?次は仕留めますよ。」
土方さんとの会話はここで終わった。というか無言で部屋から追い出されたというね…。
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