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「そんな自暴自棄になってていいんですか?山南さんが自分のことを“化け物”や“厄介者”って言ってるとあなたを慕っている沖田さん達が泣きますよ。」
「…………」
……返事なし、か。
私は仕方なく一度話を区切ろうと、ほのかに湯気を発している湯呑みに手を伸ばそうとした時─
「……逃げようと思います。」
彼は確かにはっきりとそう呟いた。
「逃げれば切腹なのは重々承知です。それでも私はここから逃げたい。」
そう話す山南さんの瞳が一瞬優しくなったように感じた。それに“逃げ切ってやる”という意志が感じられない…。
「何を考えてるんですか?」
気がつけばそんな問いが私の口から出ていた。けれど山南さんから話す気配はない…
「山南さ─」
「この新撰組のためにも私が出来ることはそれだけなのですよ。どうか、分かってください。」
彼の決意のこもった言葉は、それ以上何も言わせないと言っているようだった。…でもそんなの納得できない。
「分かりません、山南さんの言ってることが。新撰組のためを思うなら、例え副長達と意見が食い違っても生きるべきです!」
……あ、言っちゃった。まだその歴史が合ってるか分からないのに─
「知っていたのですね…。まぁあなたは未来から来た方だし当たり前か。 私は己の信念を真っ直ぐに通すことが武士だと思っています。それがまた新撰組のためになるなら尚更私は自分の信念を突き通しましょう。」
…合ってたんだ、歴史。じゃなくて“新撰組のため”ってどういう意味なのかな?何か話が噛み合っていない気がするんだよね…。 こんな話お婆ちゃんは話していたっけ?
私は意識を遠い過去へと向け、その話を探す。
───もしかして
私はある一つの話を思いだすと、小さな声にして出してみた。
「法度のことですか?」
言葉にした瞬間、山南さんの雰囲気が変わったことを私は見逃さなかった。
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