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「そうなんですね……?」
私は念を押すように尋ねてみるが、山南さんは無表情でどこか遠くを見ているようだった。
私は脳内でもう一度お婆ちゃんが話してくれたことを甦らせる──
“山南敬助”この人は総長で新撰組を脱走し切腹となった人なの。…けれどね、総長にさえ適用される法度だと示すことで、新撰組の結束を強くしようとした人でもあるのよ。
……昔はこの話を理解出来なくて忘れていたぐらいだけど、今なら少し分かる気がする。隊士達が命をかけて闘っているように、この人も一人の新撰組総長として命をかけて闘っているのかもしれないこと。
「…私は何が正しいのか分かりませんが、山南さんの覚悟は分かったつもりです。」
何をどう言えばいいのか分からないから、今は素直な気持ちを言葉にしようと思う。
「隊士さん達が命をかけて闘っているのも知ってるけど、山南さんが…死ぬのは嫌です。もの凄く勝手なこと言ってるのは分かってます、でも……… 生きてください。」
私は真っ直ぐに山南さんを見つめて思いを伝える。だんだん視界がぼやけてくるのを感じながら、頷いてくれないというのも知りながら…それでももしかたらという期待を胸に口を開いた。
……………。
重い沈黙が続く、…けれどこんな沈黙に負けてたまるか!
そう思った時─
「あなたはこの新撰組でいるには優しすぎるかもしれませんね。」
山南さんは優しい声色と瞳を持って呟いた。どういう意味か分からないけど……私は─
「優しくなんかありませんよ。本当に優しい人なら山南さんの考えを尊重するだろうし、私、副長より鬼なんですから。」
「鬼、ですか。それはとても怖い仲間が土方君に出来たというわけですね。 …優しさには色んなものがあるのですよ。」
最後の言葉はまた私にはよく分からないもので、少し…いやかなり自分の国語力のなさを恨む。
でもどうしてかそれを尋ねられる空気ではない気がして、私が迷っている間に話は進んでいった。
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