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「ったく、余計なことは言わなくていいんだよ。 で、何かあったのか?」
諦めたかのようにため息を吐く土方さんを、近藤さんは優しい瞳で見つめた後 私に視線を向ける。
「今から聞くことは他言はしないでほしい、いいか?」
よく分からないまま大きく頷く私を見て近藤さんは安心したのか、また優しい笑顔を浮かべた。そして周りに誰もいないことを確認してまた口を開く。
「山崎君に阿部十郎について調べてもらっていたんだが、さっき報告を受けた。」
言い終わるが早いか2人の表情が真剣なものに変わる。それは局長と副長の顔だと言われなくても理解できた。
「山崎は何と言っていた?」
「やはり奴は新撰組、そして私のことを嫌っているようだ。まぁそれは分かっていたことだが、この後が重要だ。
谷三十郎と大阪にいるその弟、この者達も阿部と同様に注意する必要がある と。」
………“阿部十郎”と“谷三十郎”?
「ん?どうした、何か思い当たることでもあるのか?」
不意に土方さんが私に声をかけてくれた。よほど私が難しい顔をしていたようで、少し呆れたような顔を彼は浮かべている。
「いや、何かの歴史に載ってたなーって思っただけです。でも思い出せないぐらいだし、それほど大きな事件ではないと思います。」
少し引っ掛かりはするけど、下手に話して話をややこしくするのもどうかと思う…。ここは黙っていよう。
そんな私の考えを理解したのか、土方さんは私から目を反らす─
「どうせ覚えていても言わないだろ。…まぁいい、いざという時は 頼む。」
いつもと変わらない口調だけど、どこかいつもと違う……
──“頼む”
思わず口がぽかんと開いてしまうぐらいの衝撃だった。
「……どっか頭打ちました?何か逆に怖─」
「あ゛ー!!! もういい!!先に部屋に戻る!!」
耳まで真っ赤にして、土方さんは足早に部屋へと行ってしまった。 私の持っていた沢山の本の山を奪い取って。
「ははは 歳は素直じゃないな。ああいう所は昔から変わらない。」
どこか遠くを見ているような目をして近藤さんは笑っていた。
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