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「……さてどうするかな。」
不意に近藤さんが小さく呟いた。軽い口調のように感じたが、その表情はどこか暗い。
「さっきの話ですか?私なら証拠がそろったところで仕掛けますね。」
「意外に慎重派なんだね。確かにそれが一番いいかもしれないが、先に向こうが動いていれば喰われるのはこちら側かもしれないよ。」
探偵ドラマとかでよく見る考えるポーズを私はしてみせるが、近藤さんは華麗にスルー……まぁ当然か。
しかしまさか近藤さんとこういう話をすることになるとは、ね。こっちに来て数ヵ月、少しずつ距離が縮まってる感じがする。…これが気のせいじゃなければいいけど。
「いわゆる“先手必勝”ってやつですね?…そういえば新撰組が得意な戦法とかあったりするんですか?」
不意に浮かんだ疑問を、何気なく近藤さんに尋ねてみる。でも皆それぞれに強いし、戦法なんてないかもしれな─
「あるよ、新撰組の闘う時の鉄則が。」
───え!?
「あるんですか!?」
「ははは、そう驚くことはないだろう。 新撰組の戦法はね、“一人で戦わない”。」
……………。
近藤さんと私の間に流れるわずかな間。重くはないけど、どこか話しづらい間─
「……あのー、それだけ?何かすごく気が抜けたというか…何というか。」
「大人数で攻め込む、それが勝つためには大事なんだよ。そしてどのような事であっても全力を尽くす、それが我々のやり方だ。」
胸をはって話す近藤さんの横顔はどこか自信に満ちていて、凄く頼もしく見えた。
……確かにそれが簡単だけど、確実な必勝法…かもしれないね。
「そろそろ報告がくる頃かな? じゃあ雪原君また後でね。」
そう言い残し近藤さんは立ち去った。
“また後で”……
その言葉が少し引っ掛かったけど、空が紅く染まっているのを見てその意味も理解出来た。
「そろそろ晩ごはんか。なら台所に…ぁあ!?土方さんのこと忘れてた!!」
慌てて走ろうとした時、不意に以蔵さんの声が聞こえた気がした。
微かにだけど、元気そうな声……
「……また会えるよね、以蔵さん。」
小さく呟いた声は誰に届く訳でもなく消えていった。でもきっと会える、その根拠のない思いだけが私の中にはっきりと根をはっている。
「さぁ、急ぐか!!」
私はまた走り始める。
──歴史が変わり始めてるのも知らずに
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