1001人が本棚に入れています
本棚に追加
~岡田以蔵視点~
──チャキ
金属の擦れる音と共に出る刀。
この刀でもう何人の人間を斬ったか分からない…いや、分かりたくない。
「わしはこれからどうなるのかのぅ。」
薄暗い部屋でもう何度も呟いている頼りない言葉に、気分が余計沈んでいく。ここ数日、こんな日々が続いていた。
「……早く龍馬、帰ってこんかのぅ。」
あれから年も明けて、龍馬の助けもあり今はまだ誰にも見つかることなく生きている……でも─
「愛殿に会えないというのは、やはり寂しいの…。」
愛殿の顔が脳裏に浮かぶと、まるで心にぽっかりと穴が開いたようで涙が溢れた。
情けないと龍馬に笑われそうだが、これだけはどうしても止められない…。
「以蔵ー、帰ってきたぜよ!! 今日はお前の好きな団子が… 何故泣いてる!?」
「め 目に埃が入ったき ……わし、少し外に出てくる。」
まさかこんな時に帰ってくるなんて…。
わしは刀を鞘に戻すと顔を見せないように笠を被る。ふと脳裏にまた愛殿の顔が浮かんだ。
「……もし愛殿に会いに行くなら止めとけ、失敗すれば愛殿が泣くぜよ。」
龍馬は優しくわしの肩に手をかけ、食えと団子を差し出してくれる。…わしだって龍馬や愛殿に心配はかけたくない。
────でも…
「わしは外の空気を吸うだけぜよ。」
───すまん、龍馬。
「日が沈むまでには帰ってくるき。」
愛殿に一目でいいから会いたい。
わしは龍馬の返事を待たずに飛び出すと、人気のない道を振り返ることなく進んだ。
──愛殿のために使うと決めたこの命、そう簡単に手放したりはしない
そう強く自分に言い聞かせた時、わしは少し広い通りに出てきていた。
「…あれは、新撰組!?」
少し先に見覚えある羽織を着た男達がいる。どうやら新撰組の屯所近くに出てきてしまったようだ。
そしてわしの後方にも新撰組が…
「……まだ気づかれてない。」
一瞬乱れた心を落ち着かせ、笠を深く被るとわしはまた歩き始める。
最初のコメントを投稿しよう!