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「一君の隊がそろそろ戻るだろうし、僕らも行こうか。」
「はい!」
屯所の前に集まっている者達は今から見廻りに行くようだった。
先頭に立つ男……確かわしをよく追いかけていた男の1人で名前は──
「総司、今からか?」
ふとわしの後方にいた新撰組の1人がそう声を投げ掛ける。その声に総司と呼ばれた男は、振り返ると考えの読めない笑顔を浮かべた。
───沖田総司
確か何度も新撰組には追いかけられたが、この者だけは刀に手を伸ばす時に楽しそうに笑っていた……
「おかえり、一君。何か面白いことあった?」
「何もなかった…が、総司、誤解を生むような言い方はするな。」
何気ない会話のようだが、やはりこの総司という男の空気はどこか違う…
そんなことをわしは考えながらも新撰組の屯所前を通り過ぎようとした──
「……血生臭いね。」
────っ!?
「血の臭いが染み付いてる、そんな感じかな。そうでしょ?」
───しまった!!
沖田のいきなりの言葉につい足を止めてしまった。……どうする、このまま逃げたとしてもこの距離だと逃げ切れない。
沖田はにやりと不気味な笑みを浮かべてわしをじっと見つめていた。……人斬りだとばれているということなら、ここでこの者達を斬るしかないか…?
刀に手を伸ばそうとしたその時──
「か弱い女の子になんてことするんですかっ!?」
───え?
「あ゛?か弱い女は大声を出したりしねーよ。それに何十冊も書物を持てるお前は女じゃねぇ、熊だ。」
「はぁ?じゃあ男のくせに数冊しか持てない馬鹿三さんは、ハエですよ ハ・エ!!」
「なんだとこらぁ!!!?」
屯所の中から聞こえてくる怒鳴り声。あの声はわしがずっと聞きたかっ──
「あっはははっ!! さすが愛ちゃん、土方さんと言い合えるなんてさすがだよ。」
「……褒めることではないと思うが。」
楽しそうに笑う沖田とため息を溢す一と呼ばれた男。
………愛殿が新撰組に?
「あー笑った笑った。 あ、今日は見逃してあげるよ。良かったね?」
そう言って沖田は隊士を連れて去っていく。残りの男達は屯所へと入っていった。
「……愛殿が新撰組に…? でも愛殿はわしを新撰組から助けてくれた……嘘じゃこんなの!!」
頭の中が真っ白になる。
あんなに優しい笑顔を浮かべていた愛殿が……
───わしの“敵”
涙が頬を伝った。
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