狂い始めた歴史

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しかしこのままここにいれば、岡田以蔵は新撰組に見つかり捕まる。 「屯所の前で突っ立って泣いてるなんて、馬鹿としか言えませんね。」 彼に届かない声でそう呟き、辺りを見渡す。 私は出来ればまだ彼と接触はしたくない。でもどうにか移動させなくては…。 「……あぁぁあ゛…うっ………」 言葉にならない声をあげ始めた岡田、彼を一言で表すなら── 「“哀れ”ですね。」 もし、彼の声が屯所内にいる雪原に届いていたとしたら、彼女は何を思うのだろうか。 「その悲痛な叫びが理解されなければ、尚更哀れですね。」 ……でもそれはそれで面白いかもしれない。 また私の口元が緩むのを感じた。 そして岡田以蔵は私に見られているとは知らないまま、悲しみから逃げるように走り去る。 私はその夕日で紅く染まった背中を見えなくなるまで見送ってから、屯所の前を何も見なかったかのように歩いた。 「哀れな男と鈍い女。……でもあの女の目は嫌いじゃない、あの方と似てるから。」 一度振り返り屯所を見つめる。人斬り集団と恐れられてるからか、周りには人の姿が見当たらない。 ──可哀想な男達。 私は視線を帰る道の先へと向けるとまた歩きだす。 「次ここに来る時は、新撰組を潰す時。そうでしょ?    高杉様。」 ──この肉体 ──この頭脳 ──この命…… 「全てはあの方のために。」 私の後ろで静かに太陽が沈んでいった。
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