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男は冷たく言うとマントをひるがえし、歩き去る。後ろから女の声が追いかけてくるが振り返らない。
やがて暗闇から日の光が射す場所へ出た。手で目を覆い、明かりに目を慣らす。
「本当に五月蝿い女だ」
ポツリと呟き男は歩き出す。向かう先は同志たちのいる場所。“静寂の騎士団”の本部だ。
“静寂の騎士団”は“アヤカシ”を作り出し、革命を起こすことをもくろんでいた。それを阻もうとするのが“十字架の狩人”たちだ。
「どいつもこいつも俺たちの邪魔をしやがって」
男は憎々しげに呟く。
はやくはやく、あの“愛子”を手に入れなければ。そのために何人かスパイを“十字架の狩人”に送り込んだというのに、スパイは彼らに感化され戻ってこない。
やくたたずめ、と男は思う。“狩人”たちは男の愛しい妹を殺した。“アヤカシ”に堕ちたからと言って。
あんなやつらは邪魔なだけだ。“騎士団”こそ、この世界が求めているものなのだ。
「シェル様!お帰りなさい」
一人の幼い少女が駆け寄ってきた。シェルという名の男は少女を抱き上げる。少女は“アヤカシ”を操れる世にも稀なる力を持っていた。少女の名はレビィ。レビィは深紅の髪を三つ編にし、リボンで結んでいた。瞳の色は黄金色だ。シェルはレヴィの瞳を見るたびに、刈り取り間近の稲を思い出す。
「ただいま。みなはいるか?」
「うん、皆広間に」
「そうか」
レヴィとともに本部の中へ入っていく。中は比較的平和な町だった。住人たちがシェルに気がつき、頭を下げる。
「戻った」
「お帰りなさい、あなた」
シェルを迎えたのは、愛しい妻のアリーシャだった。軽いウェーブのかかる金髪をリボンでまとめている。晴れた日の空をそのままはめ込んだような青い瞳が美しい。
アリーシャとの間に子はいなかったが、二人にとってレヴィが子供だった。
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