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シェルは本部へ向かう。入り口で証明書を取り出すと、すぐさま中に通された。報告を待ちわびている者は以外と多いらしい。
「シェル・ラザフォード、ただいま帰還いたしました」
目の前にいるのは“静寂の騎士団”最高幹部の面々。幹部の上部に位置するシェルでも滅多に顔を見ることができない者たちだった。少しばかり緊張しながらシェルは言葉を続ける。
「“アヤカシ”の母は“愛子”の情報に怯えるばかり。それから夫が欲しいと申しております」
「所詮はその程度。夫は適当にお前がつくれ、ラザフォード」
「はっ」
「“死神”と“堕天使”のほうはどうだ?」
「いっさいの連絡が取れない状況です」
「あやつらも感化されおったわい。だから言ったのじゃ、若造に任せるな、と。我らにあつい忠誠を誓うものでなければならん」
最高幹部たちは言いたい放題。シェルは言葉を飲み込み、じっと耐えた。これが終われば、しばらくは休暇がとれ、妻やレヴィと一緒の時間ができる。
ただそれだけを考えていた。
「シェル、そのうち“十字架の狩人”へレヴィとともに向かえ。“死神”と“堕天使”、それから“愛子”を連れ帰るのだ」
「わかりました」
「あぁ、すぐじゃないのよ。しばらくは休みなさい。あなたの能力は大事なんだから、時には休まないと」
「ありがたいお言葉」
シェルは一つ礼をすると本部から出て行った。いつもいつものことだ。シェルに対して最高幹部たちの信頼は厚い。しかしその分、愚痴や不満なども多いのだ。
シェルはこの地位にまで上り詰めるのに、努力などしなかった。もともと生まれついての能力があったからだ。
彼は“アヤカシ”との対話ができる。
“アヤカシ”に話す言葉などない。進化したものになら現われようが、“アヤカシ”は進化する前に“ハンター”たちに狩られていく。
しかし“ハンター”たちに狩られないよう“騎士団”が守り育てた“アヤカシ”は到底人には理解できない言葉を話していた。
シェルはその言葉を解読し、さらに話すことまでできるのである。そのため“騎士団”幹部はシェルの能力を欲し、幹部上部まで引き上げた。
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