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薄暗い部屋の中で二つの気配が話をしていた。カーテンから薄っすらと差し込む月の光は困ったように部屋を照らしている。
「“死神”、君は本部を裏切ったのか?」
機械で合成されたような不快な声が響く。
「お前だって同じようなものだろう、“堕天使”」
同じように機械で合成されたような声が響いた。始めの声のほうが僅かに高い。
“堕天使”と呼ばれた声が軽い笑い声をあげた。
「“死神”、私はあの子に会うためにここにいるんだ。裏切ったわけじゃぁない」
「ならオレも同じこと」
「そうかな?私には逃げ出したがっていたように見えた。あの“天上世界”と呼ばれる場所から」
「そう見えたのならそうなんじゃないか?」
“死神”の声は一切の感情を含まずに淡々と言葉をつむぐ。“堕天使”は軽く苦笑する。
「“死神”、あの子の力は本物だ。少なくとも私にはそう感じられたね」
「オレ達みたいな出来損ないでも感じられるのか?」
「出来損ないだからこそだよ。出来損ないは本能的な危機感を持っているからね」
“堕天使”は面白そうに言う。それに対し“死神”は面白くなさそうだ。溜息までついている。
「“死神”、私はあの子で遊んでみようかと思っているんだ。君はどうだ?」
「遠慮しておく。情がうつったら問題だろう」
「おやおや」
「オレが元の世界に戻ったとき、あれを殺さなければならないだろう。情が生まれていれば、一瞬の躊躇ができる。その一瞬の躊躇で殺されたらどうする」
「それは君が弱いからだよ、“死神”。私はここでさえも裏切るかもね」
ガンッ、と音がした。それと同時に何かが割れるような音もする。
一瞬月の光の中に銀色の刃のようなものが見えた。
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