第零話 似非

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その音がした方へゆっくりと視線を這わしていくと、遠くで荒い息を吐きながらこちらへジリジリと歩み寄ってくる赤い目の獣の姿が見えた 「ひっ…!」 まるで狼のような形。 でも確実に違うのは、遠目からでも分かる程その獣は大きすぎた 日本にも、いやどの世界にもあんな大きさの狼なんているはずがない 「な、なに……、夢なら早く覚めてよ…!」 獲物を見つけたような赤い目にジッと見つめられて、恐怖で立ち上がれない 全身がガタガタと震える 夢だ夢だと言い聞かせても、この尋常じゃない悪寒が夢ではないと物語っている気がする。 瞬間。 狼に似た獣の前足が勢いよく地面を蹴ったかと思うと、凄まじいスピードでこちらに飛びかかってきた 「…っ!」 ぎゅっと目を瞑る 死を覚悟して、両手をクロスして顔の前で身構えるけれど、しかし予想していた痛みはいつまで待っても襲ってこなかった 「…?」 恐る恐る目を開いて腕の隙間から前を見遣ると、見知らぬ男の背中が見えた 「え…?」 ガウッ! その人物が、先ほど飛びかからんとしていた獣を剣で食い止め弾き返すと、目にも止まらぬ速さで真っ二つに切り裂く 途端に広がる血生臭い匂いと地面に転がる獣に顔をしかめながらも、私はただ呆然とその男から視線を外せずにいた。
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