Prologue

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少年は向かいに座る同じ高校の生徒であろう男に語る。 「隠れオタクってのは、つまり、普通に生きていたい訳ですよ。世の中にはオタクだって理由だけで、その人を毛嫌いする人も少なくありません。勿論、それは別に悪いとは思いませんよ。人を嫌いになる理由なんて人それぞれだし、俺はそれに対して苦言を呈する事が出来るほど偉くありませんから…。『自分はオタクだッ!!』って声を大にして言える人ってのは、相当な覚悟を持ってる人間だと思うんですよ。嫌がられても良い、例え少なくても自分の趣味を理解してくれる人が存在が居てくれれば良い。ま、でも、逆に一人ぼっちになってしまう事もあるかもしれませんが、そこは一種の賭けですよね。勇気があるなって、本気で思うんです。自分はあんな風には出来ない。もし誰かがオタクを馬鹿にしてたら、俺は多分、その人と一緒にそのオタクを馬鹿にすると、思うんですよ。自分もどうしようないくらいオタクである癖に、ね。俺は怖いんです。周りの人間に嫌われる事、陰口を叩かれる事、避けられる事、色んな事が怖いんです。だから、今まで自分がオタクである事を隠して来たんです。普通の生活がしたい。どうしようもない程のオタクな自分だけれども、誰にも嫌われる事無く生きて行きたい。それが上辺だけの付き合いでも。大体、オタクって事がバレたら、それを逆手に取って上手く人間関係を取り繕っていける程、コミュ力なんて俺らにはないと思うんです。だから、隠すんです。不安の種は埋めずに、袋から出さないでおこう、と。《オタク》でありながら《一般人》でもいようとする、言わばどっち付かずの中途半端者なのかもしれません。だけど、俺達にはこれしかないんです。俺達にはオタクである事を辞めるなんて事は絶ッッッ対に出来ないんです。そして、他人の目を気にせず生きる事も絶ッッッ対に出来ないんです。ならばどうする?そしたら選択肢は限れるんです。《隠れオタク》。俺達は隠れオタクになる事によって、今を生きていられるんです。多分、俺はこれからも、こうやって過ごしていくんだと、思います」 緑江が話し終えると、向かい座っている眼鏡の男は珈琲を一口啜った。 「冷めてんな」
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