2318人が本棚に入れています
本棚に追加
心の傷に塩を塗り込まれた雅人が救いを求めるように前を向くと、正面に座るイブキが話しかけてきた。
「御主人様は、いつも紅茶を飲んでおりますが、お茶は嫌いですか?」
唐突な質問。
「嫌いってわけじゃないよ。でも、紅茶のほうが好き」
「そうですか」
何かを思案するように言葉を切る。
「私は、以前茶道の稽古も受けて参りました」
「へぇ、イブキさんに茶道……着物……和室……うん、似合いそうですね」
「ですから、今度本家に帰ったときにでも、道具があれば本格的なものがご用意できるかと」
「そうなんですか? それはぜひ! お願いします!」
答えた瞬間、雅人からは、イブキの目がいつもより大きく開いて輝いたように見えた。
「畏まりました」
イブキは表情は崩さずに、しかしどこか満足げに頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!