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イブキは会話を聞いていられなくなり、意を決して曲がり角の影から一歩出て、雅人の背中に声をかける。
「御主人様。お忘れ物です」
「え?」
振り向いた雅人は、笑顔だった。
まさしく自然体の、笑顔だった。
イブキの胸のつっかかりが、鋭さを増して、心に突き刺さった。
「あ、タオルか。ありがとう、イブキさん」
「いえ。では失礼します」
――――――いたたまれない。
きびすを返し、早々に立ち去る。
背後から「ありがとね」と雅人の声がしたが、イブキは振り向かずにツカツカと自室に歩を進めた。
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