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イブキは、一度深呼吸。
そして、綺麗に整った切れ長の目で、雅人を強く見つめる。
「少し、お話させて頂いていいですか?」
「いいよ」
「私は……小さいころからいくつも習い事をしていました」
腹の底から吐き出すような言葉の奔流は、ダムが決壊したように溢れ出した。
「いえ、させられていた、と言ったほうが正しいかもしれません。習字に歌に水泳、それに塾も通っておりました。習い事はどれも大会では入賞したり、それなりに結果を出していました。しかし、それも小学生まででした。私は井の中の蛙だったんです。中学に上がると、私より才能も能力もある人がたくさんいることを知りました。そうしたら、もう、今までしてきたことが馬鹿馬鹿しくなりました。そして、すべてを失った私は、なんの取り柄もない、つまらない人間になってしまったのです。でも、今回、御主人様に仕えることになり、チャンスだと思っていたのに、思ったようには上手くいきません……」
知らず知らずの内に、イブキ自身を縛りつけていた呪縛。
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