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しばし沈黙。
雅人にとって、数秒にも数時間にも感じられた時間の経過のあと、イブキが、手を強く握り返してきた。
その手は、微かに、奮えていた。
そして、伏し目がちだったイブキは、ゆっくりと目線を雅人に合わせる。
その少し潤んだ瞳で雅人を見つめ、唇を2、3回開閉してから、消え入りそうな声で、感情を口にした。
「あ、ありがとう、ございます……御主人様……」
風邪で紅潮した頬、汗ばんだ黒髪、熱を帯びた眼。
見る者すべてが抱きしめたくなるような、はかなげで慎ましやかな笑顔だった。
雅人は一瞬、意識が遠退いた。
「……やっぱり、女の子は笑顔が一番ですよ、イブキさん」
「え? 私、笑えてますか?」
キョトンとするイブキに、雅人も穏やかな笑みを向ける。
「はい。とびっきり素敵な笑顔です」
「……そう、ですか」
自然と笑えたことに、自分で驚いた。
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