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「ハァ…結局、一度も機嫌が直らなかったなぁ」
ポケットから出した手のひらのアヒルの足…葛葉が作ってくれた不細工な銀杏の形のキーホルダーを見つめ思わず微笑んで家の中に入る。
「…――?」
(なんだ?…―――何かが)
家に入った瞬間、何か言いようのない違和感を感じる。
ガタンッ
「…っ!?」
(なんで物音なんか…、誰もいるはずがないのに…!)
靴を脱ぐと物音のした方向…俺の両親の部屋へ急ぐ。
「…誰だ!!」
バシーンと勢い良く襖を開いたが、そこにはいつもの風景…俺の両親の奉られている仏壇があるだけ。
「……気のせい、…か?」
仏壇の前に正座すると、手を合わせて両親の写真を見つめる。
三年前―、俺の両親は旅行中に交通事故で亡くなった。急ブレーキの後がカーブの手前についていたが、原因は依然不明のままだ。
「父さん、母さん…ただい…、…?…っ、う…、がぁっ!」
キィィーーーンという耳鳴りと共に頭が割れるように痛む。
立っていることが出来なくて両手で頭を押さえてその場に蹲ってしまった。
「う…ぁっ、ぐ…っ…がぁっ!!」
『…オモイダセ――。』
「な…に…っ」
『オモイダセ――』
(なんだ?頭の中に――)
―ゆらり…
―ゆらり…
ゆらゆらと闇の中で炎が揺れている。
『…オモイダシナサイ』
炎の中心に女が立っている。
かろうじてニヤリと笑っている口元は見えるもののそれ以外は炎に包まれていて分からない。
「…誰……だ…?」
キィィーーーーン
「ぐぁっ!!がっ…っ!!」
「――鷹弥っ!!」
かろうじて繋いでる意識を部屋の入り口に向けると息を切らせた葛葉が立っていた。
「くずっ…はっ、なん…?」
葛葉は俺の姿を確認すると急いで駆け寄り手を握る。
「…くっ、いけない……まだっ!」
葛葉がヒュッと息を吸い込み目を閉じると聞いたことのない言葉を紡ぎ始めた。
「我雷公旡雷母以…」
(ダメだ…、…―意識が…)
意識が闇に落ちる刹那――。
炎の中―…
―緋色の目が鈍く光る
『……オモイダスノヨ』
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