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──1
尼守さんいわく、僕には決定的な欠点──いや、彼女は思いきって物を言うタイプではないからそのようにぼかしたのだろうが、欠陥があるらしい。
無関心、だそうだ。
僕の眼を見ると、一体どこを見ているのか、なにを見ているのか、そもそも焦点を合わしているかどうかさえわかりかねる、と言われた。
なにを見てるか、なんて、そんなの、僕の眼が向いているところに決まっているのに、やはり尼守さんは変わったことを言う。
僕は、僕が見たいと思うものしか見ない。
そんなものだろう?
そんなものであるはずだ。
所詮、人間と言うものは見たいものしか見ようとしないし、知りたいものしか知ろうとしない生き物だ。
だから、人間は人間の価値観でしか物事を捉えることができない。押し並べて、そういうものだ。
例にもれず、僕だって、そうである。
「尼守さんは違うの?」と訊くと、彼女は虚を疲れたような表情を浮かべ、困ったように俯いた。
ちなみに、その時の彼女の格好は私服で、ダウンベストとニット帽、マフラーといった、この季節にしては厚着過ぎる服装だった。
やっぱり、変だ。
尼守さんも人のことは言えないな。まったく。
無関心なんて、誰もが持ってるもののはずなのに。
──で、朝。
尼守さんはあれから帰ってしまい、僕はそのまま睡眠に入ったのだけど、やっぱり、夜更かしはするものじゃないな。滅茶苦茶眠い。
寝起きがいい方の僕でも、さすがに参った。
こればかりは隠密美少女を恨むしかないな、と思いつつ、いつも通り、朝の支度をし、家を出る。
妃由子も今日から学校らしく、いつもよりツインテールに気合いが入っている。ように見えた。
我が家の向かいは更地である。
そのため、玄関側の日当たりはかなりよく、非常に住み心地のよい環境となっている。
プランターのミニ家庭菜園も好調に機能していて、外出時の殺風景と引き替えに、それなりの恩恵を賜っているように思う。
つい一ヶ月前までは、古い一軒家がそこにあったのだが、何かをきっかけに一家心中があったとか。古いし、人が死んだとなれば、いよいよ家の買い手もつかず、速攻取り壊しになった、という経緯だったはず。
我が家と向かいの家を挟む道はあまり広いとは言えなかったので、どんなに低い物件でも、日光は搾取されてしまう。取り壊されてありがたい。
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