34人が本棚に入れています
本棚に追加
──0
「…………」
草木も眠る丑三つ時。
僕は人生において、初めての金縛りを体験した。
金縛り、と言っても目も開けられないし、一体全体なにが起こっているかなんてわからない。
美少女系幽霊に跨がれてるのかもしれないし、魑魅魍魎系に蹂躙されているのかもしれない。
見るにも聞くにもできないので、僕はただただ想像を膨らますことしかできないけど、なぜか、大した恐怖心は起こらなかった。
恐怖心どころか、嫌悪感、憎悪感もなく、なんと表現すればいいのか、暖かさ、があった。
例えば、犬は人間よりも体温が高いので、冬場の抱き枕には最適で、僕も犬臭くなるのをあまり頓着せずに毎日のように愛犬のコトーネに抱きついて夜を過ごすが、その暖かさに近い。
ついでに、愛犬の名前はイタリア語の「綿素材」から由来。
触り心地が抜群なのだ。
それと豆知識。
イタリア語では「間違う」という意味の語を「ズバッリアーレ」と発音するそうだ。
電子辞書で調べればいい。
ズバリアレって、間違ってるじゃんと笑い転げたのは今ではいい思い出だ。
と、話が逸れたが、とにかく感覚としては愛犬と同じくらいの暖かさ。
だけど、最近は春先なんで犬にはもう御役御免を言い渡したはずなんだけれど、どうしてなんだろう?
ま、そう言った疑問も実に杞憂で、僕としては稀有な体験をしたと言うような、大した後味もない終わりを迎えたのだけど。
体に何かが乗っていたような感覚が、ふと、消えたのだ。
本当になんの前触れもなく。
だから、僕は特になんの感慨もなく、そのまま眠りに落ちた。
否、僕には感慨という単語そのものに縁遠いのか。
最初のコメントを投稿しよう!