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二人の点が交わったきっかけ――
それは誰にでも起こりうるようなことだった
「相談があります」
それは三ヶ月前のことだった
終業のチャイムが鳴り終えるなり、美咲がいきなり俺のところにやってきた
珍しいなと思い、俺はクレームの書類から目を逸らし、彼女の方を向いた
彼女の目は少し赤く、潤んでいた
その目は俺に弱っている兎の目を連想させた
「どうした?何かあった?」
俺は普段弱っているような彼女を見たことがなかったので正直驚いた
何事かと思った
辺りを見回すと今日はそんなに忙しくはなく、ほとんどの者が上の連中に捕まる前にさっさと帰ろうとしていた
俺もクレームの書類に印鑑を押したら今日は久しぶりに早く帰ろうと思っていたところだった
いつも残業ばかりしていると肩が凝って仕方ない
しかし部下が悩んでいるときた
悩んでいる部下をほおって帰るほど俺は無責任ではない
どちらかと言えば何でも言ってきて欲しい方だった
ひょっとしたら俺にも彼女を悩ませる原因があったかもしれない、そう思うと愕然とした
「あの…いつか時間をいただきたいんですが…」
彼女は俯きながら言った
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