きっかけ

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しかしどうしても気になった 彼女のことが心配だという気持ちももちろんあるが、明らかに興味の方が上回っていた 誰でも気になることだと自分に言い聞かせた 彼女は唇を舐め、上目づかいに俺を見てきた 彼女の高い鼻を見て、端正な顔立ちだなぁと思った 間近で見るとより彼女の美しさは増した 彼女が贔屓にされる理由はよくわかる これだけの良いものを持つ人はそうそういない 魅力が溢れていた なぜか俺の心臓はバクバクと音を立てだした それと同時に顔が熱くなってきた 俺は拳をぎゅっと握り、その後に右手で左手を覆った 沸き上がる熱いものを冷たい感情で掻き消した 「死んだんです」 彼女の言葉は今日で一番、いや今年で一番俺を驚かせた 俺軽い頭痛を覚え、頭を押さえた 彼女と話していると夢か現実かわからなくなる 明らかに生きてきた道が違いすぎる 俺とはかすりもしていない人生だ 冗談だと思いたい気持ちを抑え、これは現実だと自分に何度も何度も言い聞かせた 「なぜ君の両親は…?」 俺の手は震えていた 兎の目は光を失い、弱々しさを表していた 魔法にかかったかのように強気な女性ではなく、ただの女性に戻っていった 「殺されたんです。見知らぬ誰かに…」 彼女は俺の胸を鋭いナイフでえぐった 「殺された?」 「そう…私が七歳のときに…」 彼女は遠くを見ながら言った 「一体誰に…?」 その頃の彼女が自分だったらと思うと、生きているのも辛いだろうなと思った 俺の目は充血していた
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