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「せっかくの美味しいご飯食べた後に暗い話をしちゃってすみません。今日の話は忘れてください」
彼女はすみません、ともう一度頭を下げた
世間から忘れ去られたように、と聞こえてきそうだった
俺はそれに対して、何も答えなかった
忘れてと言われて忘れられるような話ではない
頭の中は彼女の話でいっぱいだった
「君は今妹さんと暮らしてるの?」
「いいえ、一人暮らしです。二人とも就職が決まったら叔母の家から出ました」
彼女の話からして多分叔母が二人を育てたのだろう
「一人は寂しいから妹さんと一緒に住めばいいのに」
「妹は忙しい身ですから。それに一人にはもう馴れましたから」
彼女は口元を緩めた
馴れるはずがない
一人の夜はたまらなく寂しいものだ
思い出したくないことも一人だと思い出してしまうから――
夜は不思議な魔力を持っている
その証拠に彼女の表情には寂しさが見え隠れしていた
「あの…君がよければたまにはこうして夕飯食べようか?誰か誘ってもいいし」
気がついたら俺は彼女を誘っていた
少しでも彼女の力になりたいと思うようになっていた
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