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「それだけです」
彼女はきっぱりと言い切った
「そうか。ならいいんだ。変なこと聞いて悪かった。」
これ以上問い詰めるのは辞めた
彼女の言葉を信じることにした
「いえ」
彼女は俺を見て、くすっと笑った
「後一つだけ聞いていいかな?」
俺はポケットに手を突っ込んだ
「どうぞ?」
「いやなんでもない。忘れてくれ」
俺は止めた足を再び動かした
一体今俺は何を彼女に言おうとしたんだろう…
「送ってくよ。家はどこ?」
「いえ大丈夫です。一人で帰れます。」
彼女は掌を俺に向けてきた
遠慮しているのか、嫌なのかはわからなかった
俺の頭の中で彼女の一人でと言った言葉が反芻した
「いや送る。一人にはさせられない」
そう言い、俺は彼女を無理矢理送っていくことにした
彼女の口から一人という言葉を聞きたくなかった
俺は彼女を一人にしたくなかった
彼女と会ってから、いつもの俺じゃなくなっていくのを感じた
遠い昔に置いてきた何かが俺を呼び覚まそうとする
それを体全身が阻止していた
俺と彼女とのきっかけ――
それは誰にでも起こりうることだった
しかしそれにはルールがあった
お互いパートナーがいない、というルールが――
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