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葬式も終わり、母と私は自宅のアパートに戻りました。
家の近くまでは母の友達を名乗る人に車で送ってもらい、途中からは車が通るには少し狭い道が多いので、車から降り、歩いて帰ることになりました。
帰り道はお互いに一言も喋りませんでした。
辺りも暗くなってきて怖くなってきたので私は母に手を握ってもらおうと考えました。
母の右手を掴もうとすると、母は私の手を無言で払い除けました。
母の顔を覗き込むと、もう涙は収まっているようでしたが、かと言って無表情というわけでもありませんでした。
眉間に皺をよせ、口元がピクピクと動いていて怒っているように見えました。
太陽が完全に沈み、母と私は暗闇の中を歩いていたのですが私は怖くありませんでした。
その時見た母の顔の方が数倍怖かったからです。
いつの間にか手を握ってもらう気も失せていました。
アパートに到着し、扉を開け玄関に入ると湿気った空気が私達を包みました。
私が靴紐を解いている中、母は土足のまま家に入っていきました。
靴底に付いた土がパラパラと部屋に落ち、かなり不快に感じましたので、私はそのことを母に指摘しました。
お母さん、靴…脱ごうよって。
―――――。
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