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そういえば、葬式の時のあの涙。
あれは演技でした。
あれほど素晴らしい演技ができるのですから、お父さんを騙して結婚することなんて簡単だったのでしょう。
お父さんが死んで半年程経った頃、あの男がやってきました。
歳は50歳半ばくらいで、母にお似合いの不細工面のその男は"カツオ"という、どこかで聞いたことのあるような、そんな名前でした。
覚えていたくない、忘れたいくらいの名前なのですが、覚え易過ぎるその名前は私の脳からなかなか出て行ってくれないのです。
"カツオ"は母に連れて来られたようで、両手を前で組みながら家の中をキョロキョロと見渡し、何かを捜しているようでした。
その様子を風呂場から扉の隙間を通して見ていた私の存在にまず母が気づきました。
あーいたいた、そこにいたのね。と、笑顔で言われ、こっちに来てと指示されました。
嫌な予感しかしませんでした。
まず母が笑顔なのが怪し過ぎましたし、そんなことよりも、"カツオ"は私を見つけた瞬間、ニヤリと笑んだのです。
どうやら"カツオ"の捜しているモノは私だったようです。
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