桜木春

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「もういい」 「へ?」 その時でた間が抜けた声に驚く。 私はまだこんな声を出せたことに安堵する。 驚いて安堵する。 「聞いたのはこっちだけどもういいやって」 「そう」 「思い出は何年経っても思い出だ。変わらない。過去に戻れないのに過去の話を聞くなんてな」 くっくっと笑うが私は笑えない。 聞いてきたことに対して怒らない。 単純に理解することを放棄したのか、理解する必要を感じなくなった、そんな声だった。 そして悟ったような、見透かすような、そんな態度が嫌だった。 家の前で立っているだけなのに彼は輝いて見えた。 ああ、この人はこんな人間だったか。 興味なさそうに、だけど私を見ていた。 恥ずかしくなって、嫉妬したような顔の手塚を殴った。 倒れもしなかった。
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