0人が本棚に入れています
本棚に追加
/45ページ
「もういい」
「へ?」
その時でた間が抜けた声に驚く。
私はまだこんな声を出せたことに安堵する。
驚いて安堵する。
「聞いたのはこっちだけどもういいやって」
「そう」
「思い出は何年経っても思い出だ。変わらない。過去に戻れないのに過去の話を聞くなんてな」
くっくっと笑うが私は笑えない。
聞いてきたことに対して怒らない。
単純に理解することを放棄したのか、理解する必要を感じなくなった、そんな声だった。
そして悟ったような、見透かすような、そんな態度が嫌だった。
家の前で立っているだけなのに彼は輝いて見えた。
ああ、この人はこんな人間だったか。
興味なさそうに、だけど私を見ていた。
恥ずかしくなって、嫉妬したような顔の手塚を殴った。
倒れもしなかった。
最初のコメントを投稿しよう!