2人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
いつも一人で通る、帰り道。
学校の授業も部活も終えて、日が沈んでしまってから帰る道。
昼間は聞こえない自転車のチェーンの音が、夜の帰り道には、とてもよく響く。
街灯に戯れる小さな虫が、通り過ぎる私を眺めている。
虫は嫌い。でも、光は好き。
自宅へ近くなればなるほど、街の光はなくなって行く。民家の街灯が、ほんのり暗闇に浮いている。
時々、寂しくなって用もなく携帯電話を開いてみる。
身近に光が欲しくて。
そして今日も、何もない道の真ん中で止まって携帯電話を開く。
片足地面につけて、片足は自転車のペダルに乗せたまま。自転車の籠に入っている荷物がとても多いと、たまにハンドルを取られて転倒してしまうこともある。
でも、そこにいるのは私一人。
笑ってくれる人は、誰もいない。
着信も未読メールもない携帯電話をぼうっと眺める。暗闇に広がる光。
しかし。
突然、携帯電話がメロディを奏でた。
―母からだ。
あまりに突然の着信に驚いて、少ししてから電話に出る。
「もしもし、お母さん?」
暗闇によく通る私の声。電話の向こうから聞こえる母の声も、この闇に響いている。
『玲? お母さん、今日も残業で帰りが遅くなるわ』
最初のコメントを投稿しよう!