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聞いてはいけないことだと分かっていたのに、勝手に言葉が漏れる。
しかし、黎くんは嫌な顔をしなかった。
「昔は戸籍も鈴村だった。だけど、父親がもういないんだ。だから長谷川」
「ご、ごめん……」
私は、なんて嫌な人だろう。初対面の人にこんなことを聞くなんて。
「どうして、学校に行かないの?」
「行けないんだ」
空の一点の星をじっと見つめて、黎くんは答えた。
行けない――?
制服も来て、鞄も持ってるのに。
「明日もここにいるの??」
「いるよ」
迷わず返ってきた言葉。
「明日も来ていいかな。私、家に帰っても一人で退屈だから」
「もちろん。でも、寒くない?」
「全然!! 平気」
そう。
一人でいるよりは、こうして二人でいるほうが、何倍も暖かい。
光だって、いらない。
「じゃあ、今日は帰りなよ」
「え」
「明日も学校だろ」
そう。
今日は木曜日。明日まで学校――。
「じゃあ、明日また来るね」
「うん、それじゃあ」
黎くんはその場を動かずに、私に手をふってくれた。
真冬の20:00前。
今は、少しだけ暖かかった。
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