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それは直感や、予感といったものに近い感覚だった。彼女を助けなければならない、守らなければならない。そうしなければ何か悪いことが起こり、そうする義務が自分にはある。
義務。この感覚がデロスには、いかにも神の意思、神のお告げのような胡散臭さに繋がるように感じられて、尚更認めたくないのであった。
歩を進める毎に、胸を圧迫するような不愉快な感覚は強くなる。
茶色いレンガ造りの、洒落た宿屋の角を曲がったところで、様々の布やら毛皮やら服やらをどっさりと積んだ車を見つけた。車は、夫婦と思われる老いた男女が二人で引いている。おそらく、中央の広場で売りにだすのだろう。
デロスの顔に、自然と笑みがこぼれる。ほっと安堵している自分に気づいて、デロスは笑みを噛み殺し、チッ、と舌打ちをした。
まさにその時である。
空気を裂く女の悲鳴。
実際に聞いたわけではなかったが、頭の中でこだまするその声。デロスには、それが誰の悲鳴であるか、すぐさまわかった。
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