気配

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-1-    寒く、星の美しい夜だった。 デロスは、厚手のクロークをすっぽりと被り、赤々と燃える焚き火に当たりながら、ツノウマの小屋の番をしていた。  ここ、アマネ山の麓にあるペペの村のツノウマはおとなしく、足が速いことで有名で、そのため、盗人が夜中にすっかり連れ去ってしまうことも少なくない。村人も生活がかかっているので、「夜通し見張りをしてくれる善良な人」であれば、喜んで雇ってくれる。 デロスもその「善良な人」の一人で、三日三晩、腰に提げた剣をカチャカチャいわせながら、律儀に彼らの商売道具を守っていた。  彼が番をしている馬小屋は、村の端、山の斜面のわずかに平らになっている場所にあった。村からはやや離れた位置にあるため、デロスは、賊の一人二人とやり合うことになるかもしれないことを覚悟していたが、前日もその前の日も、時折タヌキか何かが、茂みをガサガサ走り抜けていく以外は、何事もない夜が続いていた。
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