3人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ
-2-
町全体の空気が変わった。
そうデロスには感じられた。
すれ違う人々の浮き足立った様子、よくわからない感覚に動揺する様が見てとれた。彼女の救いを求める激しい思いは、爆風のように辺り一帯に吹き飛び、今や町中に広がっているのだった。
デロスはその手に、青みがかったヌイ革のローブと、飾りっ気のない小さな布の靴を抱え、狭い路地を少女のもとへ走る。少女の気配は、町の外へ向かって移動していた。
「お急ぎなんでしょう?」
「何が必要なんだい?」
デロスが口を開く前に、老夫婦はそう言った。いささか驚いたデロスだったが、急いでいることは事実だった。
「暖かい服……それと靴も」
「はいはい、確か、うちの末の娘が昔着ていたものがあった気がするわねぇ」
そう言って老婦人は、山のように積まれた布の中に手を差し込む。
「しかし……」
「あら、女の子じゃありませんの?」
「確かにそうなんですが」
「でしょう? そんな気がしたんですよ」
老婦人は、皺の多い顔に、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
最初のコメントを投稿しよう!