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「かわいいかわいいお嬢ちゃん、お名前は?」
南へと向かう馬車。潮の匂いが残る荷台の上、真っ赤なコートに身を包む女性が、猫なで声で言う。
「……エルマといいます」
冬空の色に似た、淡くくすんだ青色のローブを着た少女は、フードですっぽりと頭を隠し、俯いたまま、ぼそりと答えた。
「まぁ! かわいいお名前! ますます気に入りましたわ」
赤いコートの女性は、恍惚とした表情で言う。首のまわりに立派なハナイタチの白い毛を巻き、真っ黒な髪は丁寧に頭の後ろで纏められ、銀の簪で留めていた。
「それでエルマちゃんは、どこまで行くつもりなんですの? ボリスタかしら。それとももっと南のミロニア?」
エルマは、隣に座るデロスに困惑の視線を向ける。
「ミロニアだ。その……叔父がそこで暮らしていてな」
「そうなんですの」と、女性は素っ気なく言葉返す。
「そうなの? エルマちゃん」
と、エルマに対しては満面の笑み。エルマはこくりと頷いた。
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