エルマ

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――   人の死というものは、強烈な波動となって周囲に伝播する。死の間際の濃縮された感情、心は、爆発して、人々を貫いていく。 例えばそれは、遠く離れた恋人に優しく暖かな思いを届けたり、恐怖や憤怒の叫びを撒き散らしたりするのである。  デロスは、震える少女の肩にローブをかけてやる。少女は茫然と、先ほどの男が倒れている方向に顔を向けていた。その視線を遮るように、デロスは少女の前にしゃがみこんだ。 「名前は?」 デロスの問いに、少女は口を開かなかった。代わりに、彼女はいじらしげに視線を落とすことで、問いに答えた。 「言いたくないのか、それとも……ないのか、いずれにせよ、今は名前が必要だ。俺はデロス。君の名は……」 デロスの頭の中に、ローブを売ってくれたあの老婦人の言葉が甦る。 『娘の名前はエルマといいましてね。今は南のミロニアに……』 「……君の名前は、エルマだ。いいか、エルマ?」 少女はぎこちなく頭を縦にふった。 ――
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