エルマ

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  愛しくてたまらないといった様子で、イザベラはエルマにあれやこれやと話かける。 一方のエルマはといえば、表情こそ変わらず固いままだったが、イザベラに対する明らかな嫌悪が、ちくりちくりと刺すような尖った感情が、デロスにははっきりと感じられていた。 幸いにも、この車に乗るデロスとエルマ以外の人間、イザベラと、その従者らしく、彼女の横にしゃんと背筋を伸ばして座る短髪の男、そして、前で馬をひく老人。彼らには、まるで力もなければ素質もないようで、エルマやデロスに何かを感じているという様子はなかった。 ただ一つ、気になることがあるとすれば……。 デロスは首を回して、馬車の遥か後方を見やった。 高く青い空と、頂きに白を被った山々。深い緑の足の短い草を敷いた丘の向こうに、白い壁に囲まれたエニウスの町が、既に掌にのるくらい小さくなって見えた。そして、そのエニウスの町から続く一本道の上、遥か後方にもう一台の馬車があった。
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