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古びたベンチ、涼しげな風が通るマイベストスポットに寝そべるのは、誰だと思い、そのまま入り口を侵入し、ベンチから少し離れた所でそれを見た。
少し汚れたTシャツにジーンズ、見るからに男っぽい服装なのだけれど、見るからに髪が長い。
此方には背中をむいてるので胸の膨らみと顔付は確認出来ないのだけれど、その全体的な身体の丸みを見るに、恐らく女性なのだろう。
自分の予定が潰されたと思うと少し腹が立ったが、この女性にも何かしら事情があるのかもしれないな、と自らを納得させ、来た道を戻ろうとしたその時。
「やや!」
威勢の良い声が先程のベンチから聞こえてくる。
「ま、まさか、ボクの間違いじゃなければ君は、坂本 縁君ではないか!?」
僕の名前を呼ぶ声、そしてそれは非常に記憶を刺激する声である様な気がする。嫌な予感がした。
振り向かずにこのまま逃げ去る方がいい気もした。
が、
振り向く。
そこには、先程の女性がいて、それは案の定僕の幼馴染み、そして僕と同姓同名の"坂本縁"(さかもとゆかり)だった。
突然の事に、唖然とする。
僕は実家から遠く離れた都会に住んでるのに、まさか此処で"会ってしまう"なんて。
「何という…何という僥倖!こ、これは奇跡か!?ボクは、ボクは!」
縁は、感極まった様に空を仰いだ。
そして僕を真っ直ぐ見る。
縁に会うのは恐らく三、四年ぶりくらいだ。
縁は声こそ元気そのものだったが、顔は弱ってる様に見えたし、腕と脚はこんなに細かったかなと考えさせられる程だった。
何にせよ、縁は酷く嬉しそうにしているが、僕にとってはあまり嬉しくない。何せ、僕は中学3年のあの時、彼女を拒絶したから。
それ以来、彼女を避ける様にして生きてきたと言っても過言では無いが、数年たった今となってはそれほどの気持ちを持ってるかと言えば持っていない。
実家から遠く離れた地に来て、彼女の事を考える事がほとんど無くなっていたという事実が大きく作用しているのだろう。
彼女は、少しフラフラしながら僕に近寄った。
「お互い多々言いたい事はあるだろうけど、ボクは今満身創痍で今にでも倒れそうだ、ベッドで寝たい。君の部屋は近くかい?」
そう言った直後、僕に倒れかかる。
彼女の柔肌に気が飛びそうになったが、明らかに顔色が悪い。
とにかく、悩んでるにもいれなさそうだと判断した。
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